骨格美人はぶち楽ちん〈頸部と体幹編〉 ~序章[2]激痛の果てに③~
③ 頭に近い神経が損傷していたら
私の場合、首の中央より下の神経が引っ張られ捻じられたようなのですが、これが首の上の方だったらどうなっていたでしょう。ひょっとしたら、首の神経(頸髄)から頭に延びている延髄(脳幹)までもが引っ張られていた可能性があったかもしれません。
話は変わりますが、乳児に起こるとされている「揺さぶられ症候群」は、生後6カ月以内の乳児が激しく全身を揺さぶられることによって、頭を固定しなかったために首から頭にかけ激しい動きとなり、頭蓋内出血(脳と眼球)や脳挫傷(脳自体が損傷を受ける)で命を落としてしまいます。体が大人のように完全に出来上がっているわけではないので、それらの傷害は起きやすいと考えられるんですね。
これは個人的な見解ですが、それだけではなくもう一つ、MRI画像でもCTスキャンでも写り込まない延髄まで損傷を受けて、機能を果たせなくなったのではないかとも考えられます。どういうことかと言うと、この部位に影響が出た場合、呼吸困難となる可能性が高いと考えられるのです。
首の骨のすぐ上に延びている延髄には“呼吸運動を制御する”という生命維持に重要な自律神経の中枢が存在しています。肺に空気を取り入れる「吸息中枢」と二酸化炭素を外に吐き出す「呼息中枢」があり、延髄の網様体(延髄から間脳まで散在性に分布する神経系)が呼吸リズムを整えているのです。
神経は背骨(脊柱管)の空洞(脳脊髄液)の中で守られているので、首を何度か揺らしても延髄にまで影響はないと言われそうですが、針金ですら同じ所を何回も曲げたり伸ばしたりしているとポキンと折れますよね。「延髄には柔軟性があるからそんなことは有り得ない」とも言われそうですが、脆弱な乳児の延髄には高性能な電子顕微鏡で見ないと判別できないようなシワや傷、圧迫痕が網様体を刺激し影響を与えていたかもしれないとは考えられないでしょうか。
首の神経の3番目(C3)に傷害が及んだとすれば「横隔神経障害」となり、自発呼吸が出来なくなります。
このように頭蓋内出血などハッキリするものとは別に、表出しにくい障害も潜んでいたのではないでしょうか。
また、この横隔神経障害は、乳幼児突然死症候群(SIDS)にも結びついてしまいます。
それまで元気だった赤ちゃんが、事故や窒息ではなく、眠っている間に突然死亡してしまう病気です。うつ伏せに寝かせた時の方があおむけ寝の場合に比べてSIDSの発症率が高いと報告されていますが、原因ははっきりしないようです。
あくまで個人的な推測ですが、首を同じ方向に向けたままで30分とか長時間同じ体勢で寝かせているとすれば、【頭をどの位置に固定したか】によって、障害が起きる可能性が高くなるのではないかと思われます。
3番目の神経(C3)が、捻じりや屈折・伸張など圧迫された状態で放置されていたとすれば、神経が切断されるようなことがなくても、横隔膜の動きにも影響を及ぼすことは有り得るのではないかと思われます。
ましてや乳児は自力で寝返りも出来ないのですから、頭を動かすことさえ出来ません。うつ伏せで首を左右のどちらかに向け、特に【顎を上に突き出す】ように寝かされていれば尚更C3の圧迫度は大きくなってしまい、動かせない状態でい続けるのです。
私も眠れない時にうつ伏せになることがありますが、地球の真ん中に強い引力で引っ張られるような感覚になり、いつの間にかすぅーっと気持ち良く眠ってしまいます。大人は苦しくなれば無意識に寝返りが出来るのでそういう心配はありません。
しかし、乳児は自力では動けないのです。乳幼児の骨格も神経も内臓も、大人と同じように見えるかも知れませんが機能は全くの別物と考えた方が良いようです。“全てが脆弱であること”を強く意識しておくべきだと思うのです。
大人であっても、神経の脊髄や延髄は断裂しない限り表面上では何の異変も見つかりません。圧迫されたとか伸びたくらいでは損傷部位を目に見える形で表出してはくれないのです。だからこそ、確定診断には結び付きにくいのかもしれません。
せっかく生まれて来た赤ちゃんに対して、何を根拠に激しく揺さぶることを体に良いとし、実行したのでしょう。それこそ“怒り心頭に発する”です。
《その他の神経障害の例》
C5:上腕二頭筋の障害で肘が曲げられない
C6:上腕三頭筋の障害で手首をくるぶし側に曲げられない(背屈不可)
C7:手首を手掌側に曲げられない(掌屈不可)
C8:指が曲げられない
T1:指を開いたり閉じたりができない
このように、大人であっても延髄に近いと手技の仕方によって呼吸に影響が出るとも限りません。だからこそ、施術者は慎重に手技を行うだけではなく、身体内部の知識を得ることが絶対に必要だと思っています。